底冷え

岩 粗削り

何年か前本気で死のうとした。

自分の無価値さと無力さと孤独と先の見えなさで、もう死のうと思った。

スマホのアプリで遺書を書いた。内容はあまり思い出したくない。

死ぬ場所を検索して決めた。当時住んでいた場所から交通費何千円かで行ける海にした。

片道だけ、たった何千円かで自分の命が終わることを考えるととても自分らしいと思った。

むしろ自分への弔いとしては十分だった。

意識が朦朧とする薬と包丁を持って、海で溺死しようと思った。

死体が上がらないか無惨な状態で身元が分からなければ自分という人間を人間の様式で弔われることができなくなる。

それを考えると誰にも知られずに人間としてではなく自然の一部としてごく当然に死ねるみたいでいいと思った。

薬で意識を朦朧とさせ海に入るか、自分への憎しみと最後の挨拶の意味を込めて包丁で刺す二通りを考えていた。

でも結局海に行くことも、殺傷力の高い包丁を買うこともできなかった。

自分の理想的な殺し方だけは今でも残り続けて、いつか殺したいという気持ちにさせる。