底冷え

岩 粗削り

希死念慮の中の妄想

突然の希死念慮で狂ってしまった。はじめは理由なき純粋な希死念慮であり、つまり自分は死ぬべきという観念である。ただただ自分を殺したいという強い欲求が苦痛であり快楽だった。そんな欲求に応えるために自然と浮かんだ妄想はその日見た夢の光景がベースになった。その夢の中で自分は4mほどの高さから目下の水面へ飛び込んでいた。その巨大な水槽がこれまでで最も希死念慮にマッチした場になった。

その水槽はただの場だけでなく複数の人も設置されていた。この部分も夢をベースにしているが夢と異なるのは、妄想の中で操作するのはその人々だという点である。夢の中ではその人々が現実同様に操作不能な他人だったが、妄想の中では他人であるが操作の対象であった。他人の人々を操作し、その目線で自分を殺すのである。自分と人々は水槽の対辺に位置していて向かう合うように設置されている。

 

(妄想が自分にとってどのようなものかはほとんど言及せず、ただ内容だけ詳細に書いています。)

 

不思議なことに殺される自分として妄想に現れたのは、ペラペラの紙だった。自分らしきものが紙に表されていて、何かを諦めきれない様子で下の一辺をペラペラと動かしながら人々の方へ進んでいた。人々はニヤついている。ついに紙の自分が人々の前へたどり着くと、人々はそれをつまんで水槽へ投げた。紙はヒラヒラと舞って水の中へ沈んで溶けた。死んだ瞬間にまた自分が水槽の上に現れる。妄想の内容はこのように自分が人々に簡単に殺されるというシンプルなものだった。内容を忠実に守りながら表現だけを変えて自分が殺され続ける。例えば紙の自分が破かれたりくしゃくしゃに丸められたり燃やされたりなど。また方法だけでなく自分の姿も紙から割り箸でできた簡易な人形へ、それから藁人形に段階的に変わっていった。しかし死を繰り返していてもなぜか自分は人々の元へ向かっていっていた。そして常に死体は水槽の中へ投げ入れられていた。その死体は消えずに積み重なっている。

そしてついに自分が人間の姿をとる。殺され続けて人々への恐怖が植え付けられているようで、前の自分が死んだ次の瞬間に現れた自分は激しく怯えた表情をしてその場から動かなかった。そんな自分を人々はボウガンで肩に撃つ。わざと急所を外して苦しむ様子を楽しんでいるのだ。人々は何回か撃ってついに殺した。自分が水槽の中で死ななかったため、新しく現れた自分のすぐ側に何本かの矢が刺さった死体がある。それを見て恐怖した様子を見せる自分だが、人々は銃で眉間を撃ち抜く。すぐに新しく現れた自分は自分の2つの死体を両肩に支えて抱え、水槽の中へ自ら飛び込む。水槽の水はもう死体でいっぱいで汚い。その中で2つの死体を抱える様子は自分への愛しさが表れているように見える。人々のボウガンや銃による攻撃を死体がいくつか受けたが、ついに生きた自分に命中して死んだ。

人々は怯える相手を見て自ら相手の方へ向かった。変わらず怯える自分を容赦なく殴り続ける。次に現れた自分は縄で首を絞められた。

何をしても無駄な状況と、確実に死が訪れるこの妄想に強い快楽を感じていた。